探偵の前頭葉
マンチストのなれの果て
前頭葉
 大脳半球の一部で、中心溝より前方にある部分。
 哺乳動物の高等なものほどこれがよく発達。
 運動の統合・言動・感情・意志・思考などの精神作用の中枢部。




 アリスは火村の研究室を訪ねていた。火村は、まだ仕事が終わらないのか、パソコンの前に陣取ってじっと画面を見詰めている。
 アリスは、火村の横に簡易椅子を持ち出して、火村の作業が終わるのを、ぼけーっとパソコンその他周辺機器を眺めながら待っていた。
 パソコンラックの上には、プリンターやマウスが機能的に並べられている。その裏からは、何本ものコードが伸びていた。白くのたうちながら床へ、そしてコンセントのプラグへと伸びているそれを、意味もなく目で追う。
(まだ、終わらへんのかなぁ)
 呼び出されていた時間よりも、少々早目に着いてしまったのはアリスの方だったが、だからといってここまで何もする事がないと、さすがに退屈である。
 手持ち無沙汰ですることもなく、そろそろ火村のキャメルでもくすねようかと思っていた頃、ようやく火村がアリスに向き直った。
「悪かったな、今終わった」
 謝る気があるとは思えない口調で、火村がアリスに告げた。
「ほんまやでぇ、そんな急ぎの仕事があるんやったら、わざわざ今日呼び出さんでもよかったのに…」
 欠片も悪びれた様子のない火村に、アリスが悪態を吐く。けれど、そんなものに動じる様子もなく、火村は保存完了とばかりにアプリケーションを終了させて、パソコンを閉じた。
 と同時に、MOからディスクが飛び出す。
 アリスは何気なくそれを手に取り、その温度を指先で感じて、呟いた。
「なんでこない熱くなってしまうんやろう」
 独り言めいたささやきに、火村はにやりと口端にニヒルな笑みを浮かべて、アリスの顔を覗きこんで応えた。



「それはきっと、恋しているせいさ」





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