眩めく愛の劇場
ある日の出来事
其の二




 プルルルル…
 電子音が、室内に鳴り響く。たまたま電話機の近くにいた小太郎が、受話器を取った。
「はい、もしもし…。はい、少々お待ちください」
 小太郎は受話器片手に、ソファでくつろいでいた高坂に歩み寄る。
「高坂殿…」
 高坂は、小太郎に視線を向ける。絡む視線。小太郎の形の良い口唇が、微かに震えた。
「………いち、に、さん、江南から電話だが」
 小太郎は、無表情で高坂に告げた。
 一瞬、空気が凍る。薄ら寒い沈黙の後、高坂が口を開いた。
「小太郎殿…それはもしや、愛知日産江南の間違いではなかろうか」
「―――そうやもしれぬ」
 小太郎の鉄面皮はそれでも、崩れる事はなかった。





<-menu




inserted by FC2 system