青春時代 |
ほんの数週間前まで自分と同じ校舎に居た人が、居ない。 それは現実として受け止めるにはリアルさが希薄で、けれどそれは間違いなく現実である証拠の空虚感。始業式の後、部活も短めで終わった春の午後。夕焼けが窓から降り注ぐ自室で、手塚国光はぼんやりとその事実について考えていた。 一応は机に向かって、まだもらいたての教科書を開いてはみたものの。何を読んでも、頭に入ってこない。 あの人は、もう居ない。 頭では分かっていても。感情がついていかない。 その辺、データですべて割り切ってしまう乾や良くも悪くも利己的な不二は、もっとドライにシビアに物事を捉えているようだけれど。 大石に「人も少なくて寂しいな」と、春休みの練習中に言われた時には自分だって寂しいとは思ったけれどだからどうだって感情はまったくなかった。だって当然じゃないか。3年の先輩達が抜けて、まだ今年の1年が入ってきてないのだ。だから、今更こんな無力感に駆られるなんて。 それなのに。 そんな判りきったことさえ気持ちが納得できないなんて、自分で信じられない。 居なくなって、初めて気がついた。 自分にとってあの部長がどれほど・・・大きな場所を占めていたのか、を。 「大和・・・部長・・・」 思い出して、何故か。 ぞくりと下半身に刺激が走る。 「―――――っ」 まさかと思いながらおそるおそる衣服の上から軽く触れた自分のソコは、わずか硬度を増していて。軽く触れただけの手の感触に、更なる欲求を呼び覚まされる。 誘惑に駆られて更にカタチをなぞるように触れると、明らかな牡の反応。 「・・・んっ」 初めて、ではない。自分で処理すること自体は。 普段かなりの運動量をこなしている生活を送っているためか、同年代の男子に比べてまぁ・・・回数が少ないのかな、とは思っていたが。 けれど、大和を思い出して欲求を覚えたのは。初めてだ。 まさか、同姓の。しかも、尊敬にも近い気持ちで慕う先輩の姿を思い浮かべてだなんて。 襲うのは、罪悪感。 自分の感情に対する違和感はもちろん感じたけれど。 それなのに、自分の右手が与える単調な刺激が、想う大和の姿によって淡い疼くような感触に変わってそこから生まれるじっとりとした快楽に脳裏に浮かんだ姿を消せない。 酷薄そうでいてどこか優しさを漂わせる笑みや。 練習中に肩に触れた掌の感触や。 卒業式の日。 最後に、1度だけ。別れの儀式としてほんの少しだけ抱き付いた身体の形を。 まるで、脳じゃなくて皮膚が記憶してるみたいにまざまざと。 肩に触れたはずの掌の感触が、性器を扱く掌に重なる。 「・・・んっ」 曖昧な刺激に耐えられず、ジッパーを下げて下着から引きずり出したモノを直接握り込んだ。 開放感と快感。 脳裏に刻まれた記憶を追いながら、必至で左手を上下に動かす。 自分を見下ろす大和の顔を、大和の笑顔を、大和の軽く歪められた笑った時の口唇を。 「・・・はぁっ」 吐き出した白濁の感触を手の平に受けて。 (大和部長・・・ごめんなさい・・・) 後悔と罪悪感だけをココロに残して、国光は机に突っ伏した。 |