Good morning, you got a mail!




 わずかにもれ聞こえる、表の通りを走り抜けていく子供の声に、目を覚ました。
 ベッド脇の時計を見ればまもなく午前八時。
 そろそろ起きなあかんなぁと思いつつ、甲高い声が通り過ぎるのをぼんやりと聞きながらふんぎりがつかずにまた枕に顔を埋めた。
 登校時間、なのだろうか。近くに小学校があったことを佐藤成樹はまだ半分眠ったままのアタマで思い出した。
 小6で飛び出した実家に戻って、三年が経って。
 高校在学中に正式契約して今ではいっぱしのサッカー選手になった。
 そして、先月からは再び実家を出て、チームの練習場まで徒歩で通える場所にアパートを借りて一人暮らしを始めた。
 掃除だの、洗濯だの。煩わしいと思われがちな家事全般は、正直嫌いじゃない。唯一、食事だけは一人分の料理ってのが案外面倒で億劫になりがちなのだけれど……。
 再び、まどろみ眠りに落ちそうになったところで、メール受信を知らせる携帯の電子音に慌てて携帯を掴んで、開いた。
「やっぱ効果絶大やな」
 受信メールについてきた添付ファイルを開けたところで、佐藤は一人笑顔を見せる。そこに映っているのは、一瞬で佐藤を覚醒させる威力を持った遠恋中の恋人―――渋沢克郎の寝起き顔だった。
 練習のある日ならば、どれだけ朝が早くてもどうにかこうにか気力で起きられるのだが、休みとなると途端に朝に弱くなる。誰かと出かける予定でもあればまだしも、一人で過ごす完全オフとなると、うっかり昼過ぎまで寝てしまうことも少なくない。
 これから本格的にシーズンが始まることを思えば、あまり生活リズムを崩してしまうのも良くないけれど、なかなか自分自身では起きられない。
 そう、渋沢に漏らしたところ。
 朝にはめっぽう強い渋沢から、出された提案がモーニングメールだった。
 だいたい六時には起きているから、携帯が手元にある時ならばメールしてやるぞ、と言う渋沢の心遣いに、佐藤は断られるのを覚悟でおねだりをした。「渋沢の寝起き写メをつけて送って」と。
 最初は自分撮り自体が恥ずかしいと断られたけれど、ただのメールだと見たらまた寝てしまうかもしれん、とダダをこねれば、写真を絶対に誰にも見せない、保存もしない、という約束付きで了承を得て。
 それが、昨夜の話。そして今日、送られてきたのが、コレだ。
 少し腫れぼったい目が笑顔と困惑の間くらいの曖昧な表情を作っていて、口元は渋沢がいつも照れた時に見せる笑顔。
「このカオが見れるの、貴重やって本人気付いてへんのやろなぁ」
 きちっとした性格のせい、なのか。渋沢のこういうぼやけた顔を見れる機会はあまりない。世間的に言えば、カッコイイ顔でもキレイな表情でもないんだろうと思いつつも。
「この顔が、可愛いんやん」
 佐藤は、ベッドに転がったままにやにやと携帯画面を見ながら。
「こんな貴重なモン、捨てたらバチあたるで」
 人の携帯を勝手に見たりはしない渋沢のことだから、佐藤が自分から見せたりしなければバレやしないだろう、と簡単に渋沢との約束を違えて保存してから、ためしに携帯の待ちうけにもしてみる。
 ひとしきり写真をいじって一人で笑ってから。
「そや」
 ふと、思いついて。
 佐藤は、携帯カメラのレンズを自分に向ける。目を閉じて。
 カシャっという電子的なシャッター音と共に画面に映し出された自分の顔を確認して、キモッ、とセルフ突っ込みを入れて笑いながら、保存して。
 おはようのちゅう、とだけ書いた本文とともに渋沢に送信する。
「渋沢、どんな顔するやろ」
 受け取った瞬間の渋沢の表情を想像して、朝から頬がにやけている現実がこっ恥ずかしくも楽しくて。
 送信完了のメッセージが出た携帯を閉じて、佐藤はようやくベッドから起き上がった。











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