in your bed




 うとうとと夢の中から足だけ出したような感覚で覚醒の一歩手前をウロウロしながら寝返りを打ったら、少しだけ意識が浮上して瞼の向こうに光を感じた。
 その瞬間。俺、藤代誠二は。一気に目を開いた。
 隣りに眠る不破大地の趣味で、完全に外の光を遮断してしまう遮光カーテンの隙間からかろうじて射し込む光が俺の意識を目覚めさせた。と同時にガバッとベッドから飛び起きる。
 俺の趣味としては、朝起きた瞬間に天気が分かるくらいのカーテンのが好きなんだけど。まぁここは不破の家なので贅沢は言えない。
 俺は外の様子を確認するべくベッドから降りて窓へと向かう。ザッ、とカーテンを開けば。
「ん〜、いい天気っ!!」
 文字どおり、目が覚めるような快晴。
「・・・眩しい」
 俺が空を見て上げた声に、背後から布団の埋もれた呻き声が聞こえる。
「不破っ、起きなよ! 超いい天気っ」
 振り向いてもっと大きな声で不破に呼びかけたら。
「・・・五月蝿い」
 小さく罵られた。
 俺は思わずふくれてしまう。
「せっかくのお休み重なった日なのにーっ」
 足音も荒くずかずかとベッドに戻って、不破から掛け布団を奪うものの。
「俺は今週仕事が忙しくて連日2時間睡眠。しかも昨夜は早く寝たハズが藤代のせいで結局就寝は2時過ぎ。現在朝7時。人間の平均的な睡眠時間を6〜8時間とする。俺の平均時間はそれよりも少し短めで4時間強」
 そこで、言葉を切る。寝起きだなんて言われなきゃ分からないようなキリッとした目で、それでもまだベッドにごろごろしたまんまの格好で、睨まれた。
「たしかに本日分の睡眠は足りている計算になる。しかし、その前の5日間の不足分を考慮すると。・・・睡眠不足だ」
 言うなり、明るい光から逃れるみたいに枕を抱えてうつぶせになってしまった。
「あー、不破ーっ」
 要は、アレだろ。難しい言葉でごちゃごちゃ言ってるけど、結局まだ眠いって言ってるだけじゃん!
 俺は、昨日の夜俺が脱がしたままの姿で眠る不破の裸の肩に、抱き付いた。
 エアコンが適温に保ったこの部屋に空気に直接晒されたその肌は、少しひやりとしていて気持ちよくて。くっきりと浮いた肩甲骨に、口唇で触れた。
 けど、無反応。
「もーっ」
 マジで寝ちゃったみたい。まぁ、確かにここんとこ忙しかったみたいだけどさ。全然電話も出てくんなかったし。
「でも、俺だって忙しいのは一緒なのにっ」
 不破が大学に入ってからはもうずっとこんなカンジ。理系の大学ってのはどこもそうなのか、よくわかんないけど。
 やたらと研究やら実験? なんかそういうので大学にこもりっぱなし。
 掛け布団を直しながら背中を見る。
「ちょっと、痩せた?」
 昨日、抱きしめた時も思ったけど、もともと結構細めなのに更に痩せたっぽい。
 不破のことだ。平気でご飯食べるのも忘れて集中しちゃってんだろうとは思うけど。
「ちゃんとご飯は食べなきゃ駄目だぞー」
 本格的にまた眠ってしまったらしい不破の背中にお小言を言ってみたけど、当然返事はナシ。
「さぁて、俺はどうすっかなぁ」
「おまえも寝ろ」
「えっ、不破まだ起きてたの?!」
 絶対寝てると思ってた不破がいきなり喋って、俺は驚いて思わず大きな声を出してしまって。
「あんなにうるさくされて寝ていられるか」
「だったら返事くらいして―――」
「五月蝿い」
 がばっと起き上がって振り返った不破の、眠くて不機嫌そうな顔が近づいて、わ、頭突きくらう! と思った次の瞬間。
「ん・・・」
 唇にやわらかい感触。下唇を軽く挟むみたいにしてから、離れて。
「寝かせろ」
 冷たく、一言。
「―――はい」
 なんか、ちゅーで誤魔化されたような気もするけど・・・結局それ以上逆らえなくておとなしく言いなりになってしまう。
 そんな俺に不破は頷いて見せて、また布団に逆戻り。
 俺も仕方なく、不破の隣にごろんと横になる。
 俺のほうに背を向けて寝てる不破の背中を、抱きしめた。
「不破、俺のコトほんとに好き?」
「・・・・・・」
「俺は不破のコト好きだからね?」
「・・・・・・判りきったことを聞くな」
 判りきってないよ、俺はいっつも不安だよ、いっつも連絡するのは俺からばっかりで、電話もメールもくれないし、会ってもそっけないし、つか全然会えないし、こんな会えなくて不破はいいのかよ。
 溢れそうな言葉を全部飲み込んで、不破の後ろ頭にこつんと自分の頭をぶつけた。
 そんなこと言っても不破はため息つくだけ。
 判ってるから言わない、言わないけど気持ちはなくならない。
 俺は、いつもいつも伝えたいのに。
「不破、好きだよ」
 うなじにちゅっ、てしながらそう言えば。
「判っている」
 小さなため息と一緒に、腰にまわした俺の手を握った。
 たったそれだけのことなのに、安心しちゃう自分自身がちょっと情けない気もするけど。
「うん」
 もっと近くに、もっと触れたくてぎゅっと抱きしめる。
「だから、今日は寝かせろ」
 言うなり、不破の呼吸はまたすぐに眠ってる時の規則的な速度になって。
 せっかくいい天気なのになーとちょっともったいなく思いながら、俺もまたうとうとと眠りについた。











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