冬 の 朝
(藤代×不破)



 剥きだしの肩に感じた寒さに目を覚ました不破大地は、隣に眠る藤代誠二の口を半開きにした間抜けな寝顔をちらりと見下ろしてから、そっとベッドから抜け出した。
 手早く下着だけを身につけ、エアコンの電源を入れる。
 ピッという短い電子音を聞きながらカーテンの隙間から外を見やれば、よく晴れてはいるけれど。
「-2度。寒いはずだ」
 ベランダの脇に掲げられた温度計が指し示す気温に頷き、不破は床に落ちていたパジャマ代わりのジャージと長袖Tシャツを着込んで、さてどうしたものかとベッドの端に座った。
 壁の時計を見やれば、まだ8時を回ったばかり。週末とは言え普段は何かと予定に追われている不破だが、今日は文字通り休日だ。休日の朝としては早いうちに入るだろう。
 足の裏に触れるフローリングの冷たさに、もう一度ベッドに入るかそれともこのまま起きようかと思案していると。
 不破の気配に目を覚ました藤代が、もぞもぞと動いた。
「不破、起きるの?」
「どうするか考えているところだ」
 眉を顰めながら目を擦る藤代の仕草に、まるで子供のようだと不破が思っていれば。
「不破が起きるなら、起きる」
 寝ぼけているのか少し舌足らずな声でそう言われ、不破は小さく笑った。
「藤代はまだ眠いんだろう、寝ていればいい」
「やだよ、今日は不破と一緒にいるんだから。不破が寝るなら俺も寝るけど不破が起きるなら俺も起きる」
 明らかに寝足りていないといった不満顔でそう主張する藤代に、まるで駄々っ子だなと不破が言えば。
「だって、久しぶりだろ」
 言うなり、藤代の腕が伸びて不破の腰を掴んだ。
 確かに、二人きりでこんな風にのんびり過ごすのは半年ぶり、くらいだろうか。
 普段からすれ違いがちではあったけれど、ここ半年ほどは藤代の海外遠征や合宿が立て続いたこともあり連絡を取ることすらままならない状態になっていた。
 そのツケを払うように、藤代が不破に無理矢理丸二日間の休みを作らせた。二人そろって、何の予定もない週末。
 半ば、騒ぐ藤代を黙らせる形で承諾した休日ではあったけれど。
「悪いことではない、か」
 不破は小さく呟いて、藤代の頭に手を置いた。忙しない毎日は充実感もあるし、何より頭を使うことが好きな不破にとって実験とレポートの繰り返しのような今の状況も苦ではない。けれど。
「――何?」
 まだ、半分眠っているのだろう。タイミングをはずして問いかけてくる藤代の頭を、そっと撫でた。
 感情というのは、こういうものなのだろうか、と漠然と思う。
 久しぶりの時間に追われない朝。眠そうな藤代の頭を抱えてベッドの中でだらだらしているのも無意味ではないように思えてくるから不思議だ、と不破は微かに笑った。
「たいしたことじゃない」
「そんな言われ方したら、それはそれで気になる・・・・・・」
 半分閉じた瞼をこじ開けるように見上げてくる藤代の頭を、不破は真顔で軽くはたいた。
「休みもたまには悪くないと思っただけだ」
「なんの話?」
 しかし、寝ぼけた頭ではもとより文脈の繋がらない不破の言葉は理解できていないのだろう。ぼーっと不破を見ているだけの藤代を体ごと壁際におしやるようにしながら不破は掛け布団を捲った。
「もう少し向こうに行け」
「ん・・・・・・? 不破も寝る?」
「おまえが眠そうだからな。付き合ってやる」
 藤代の体温で暖まった布団に包まれて、不破は初めて自分の体が冷え切っていたことに気付く。
 無意識にほっと息をつけば、まるでそんな不破を暖めようとしているように藤代が両手で冷たくなった肩を抱きしめた。
「不破が起きるなら起きるって・・・・・・」
 口ではそう言いながらも、瞼は既に閉じている。
「いいから、寝ていろ」
 そう言ったところで藤代からの返答はなく、しばらくして聞こえてきた規則的な呼吸音に、不破も目を閉じた。



 それから30分後。 
 毛布の暖かさにまどろみかけていた不破をベッドから蹴落としかねない勢いで、藤代が飛び起きた。
「あっれー! なんで不破だけパジャマ着てんのー!」






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