冬 の 朝 |
(三上×水野) |
いつもは目覚ましと携帯のアラームで無理矢理覚醒するところを、今日に限って何故だかすっきりと目が覚めて三上亮は起き上がった。 「・・・・・・寒」 小さく呟いてから壁にかけた時計を見れば、起きる予定の時間より30分も遅い。 「うわ、もうこんな時間かよ!」 慌てて掛け布団を蹴り上げて立ち上がれば、そんな三上を非難するように小さくくぐもったうなり声が聞こえたけれど今はそれに構っている余裕はない。 「悪い、水野。いいから寝てろ」 それだけ言って、三上は着替えを掴んで風呂場に駆け込んだ。 昨夜遅くに突然やってきた水野竜也との付き合いも、気付けばもう5年になるだろうか。生活サイクルの違いが大きいせいで一緒に過ごす時間はあまりないけれど、時折、水野は突然この部屋に来る。 酔っ払ってご機嫌で来ることもあれば、不機嫌丸出しで来ることもあるけれど。それでも、水野が自分からここを訪れる時は誰かに甘えたい時と決まっているから、三上はいつもどおりに水野を招き入れる。 そして、昨夜も。 ふらりとやってきた水野は、少し酔っ払っていて。 何があったのかは知らないけれど、ご機嫌な様子でじゃれて甘える水野は素直じゃなさは変わらないくせに、可愛く喘ぎながらやけに欲しがるから。 (腰、いってー・・・・・・) 頭から熱い湯を浴びながら、三上は軽く腰をさすった。 さすがに平日の深夜1時過ぎから三発はやりすぎた、と今更後悔しても遅い。気だるい体に鞭打ってシャワーを済ませ、濡れた髪を手早くタオルで拭きながら鏡を見れば、肩口には歯型が赤くくっきりと浮いていた。 「あーあ、派手に噛み付きやがって」 体を洗った時になんだか染みるなと思った原因はこれか、と笑いながら下着だけを身に着け部屋へと戻っても、水野はまだ起きる気配もない。 「しかし、よりによってこんな日に来なくても・・・・・・」 時間を気にしつつ、まだ慣れないスーツを着込みながら三上は小さくぼやく。大学も卒業が確定し、無事に就職も決まった、社会人一歩手前の空白の時期を楽しんでいるこの時期、普通ならば三上も時間を気にせずのんびり寝ていられるのだけれど。 「よりによって、説明会の前日狙ってくることはねぇだろうよ、ったく」 今日に限って、就職予定の会社の、内定者向けオリエンテーリングに出かけなければならない。 ネクタイを締め、ジャケットを羽織ってから申し訳程度に髪を整えて。 コートを取りに行ったついでに、なんとなくまだぐっすり眠っている水野の寝顔を覗き込んだ。 不自然にはならない程度に明るくカラーリングされた指通りのいい前髪をそっとかき上げれば、形のいい額に小さなカサブタが見える。 ガラじゃなえぇな、と思いつつも。 練習中にでもつけたのだろうその傷に、三上は軽く口付けた。わざと、ちゅ、と小さく音を立てて触れた唇の感触にようやく意識が覚醒したらしい水野が目を開ける。 寝ぼけているのかしばらくぼんやりした顔で三上を見つめてから。 「なんでそんなカッコしてんの」 スーツ姿に不思議な顔をして、少しかすれた声でそう問う声にはわずかに昨夜の艶が滲んでいるように感じるのは気にしすぎだろうかと、また触れたい衝動に駆られそうな自分に危うさを感じながら三上は笑って手を離した。 「会社の説明会、昼過ぎには終わるからまた連絡する。今日休みなんだろ?」 「あー、うん」 「じゃあ、のんびり寝てろ」 鏡を覗き込んで家を出る前の最終チェックをしながら。 少し迷って。 「行ってくる」 水野の頬に、軽く触れるキスをしてから手を振った。 ばたばたと部屋を出て行く三上の後姿をぼんやりと見送った水野は、やけに甘い空気に一人照れて再び枕に顔を埋めた。 「何恥ずかしいことしてんだよ」 駅に向かって急ぐ三上も。 (朝から何やってんだかな・・・・・・) 走りながら、放っておけばだらしなくにやけそうになる頬に力を入れた。 |